中村文則「迷宮」 あなたはそんなに汚くないよ
この人の小説を読むと、悪への敏感さに慄いてしまう。
大学時代、僕には演劇部で同期の友達がいた。彼は童貞だった。また違う同期から聞いた話なのだが、彼は他劇団で客演した打ち上げの際、年上の女性からおっぱいを触らせてもらえたらしい。その後、彼は裏で泣いていたそうだ。
自らの純粋性が穢れてしまったと嘆く相手に対し、こいつのこの感覚、僕にはないなあ、と少し距離を感じつつ、その自意識の気高さについていけなくなる。羨みと辟易を同時に感じる。
そんな風に彼に対して思ったのと同じ風に、中村さんの小説を読んでいても思う。
うまく折り合いをつけていってほしい、と思う。